パワハラ110番

パワハラの実態に迫る

「心理的負荷による精神疾患等に係る業務上外の判断指針」の改正により、パワハラ行為で精神障がいを発症させることは、工場内の事故でケガ人や死者を出すことと同等の過失があると認められた形になったと言っても過言ではありません。「労災=工場のケガ」という単純な構図は通用しない時代になってきているのです。
こうした社会の動きに伴い、パワハラに関する認知度はひと昔とは比較にならないほど高まりつつあります。
「職場では今、何が起こっているのか?」
その実情を解明するため、大規模な調査や研究も活発に行われています。ここでは、それらの結果から少しずつ明らかになってきた「パワハラ問題の今」を一緒に見ていくことにしましょう。

アンケート調査結果が示していること

労働災害を防止するための各種活動を行う団体としては、第1章でご紹介した中央労働災害防止協会の他にも様々な機関があり、パワハラに関する調査や相談に積極的に取り組んでいます。
中でも、財団法人21世紀職業財団が2004年に様々な業種をまたいで行った「職場におけるハラスメントに関するアンケート調査結果」は、パワハラの実情を知るための非常に貴重な資料と言えるでしょう。このアンケート調査は、2004年の3月に、3市場上場企業および店頭銘柄等を含む約3,400社を対象として実施されたものです。表2-3-1から分かるように、パワハラに関しては企業の規模が大きい(従業員が多い)ほど「たまに見られる」と回答する人の割合が大きくなっています。反対に、規模が小さいほど「まったく見られない」と回答する人が多く、パワハラの発生率と企業規模の間には密接な関係があることが窺えます。
また、業種によって「まったく見られない」と「たまに見られる」の割合が異なる点も興味深いポイントです。例えば、建設業では、全体の約6割の人が「まったく見られない」と答えたのに対して、「たまに見られる」「しばしば見られる」は約2割です。これに対して金融・保険業は、「まったく見られない」と「たまにorしばしば見られる」の割合がいずれもほぼ4割で大差がありませんでした。

 

 

 

図表2-3-1 「職場におけるハラスメントに関する調査結果」

(2004年 21世紀職業財団)

職場におけるハラスメントに関する調査結果

 

建設業といえば、危険な現場での仕事も多いことから「バカ野郎!」といった怒声が飛び交う職場というイメージが強く、傍から見れば先輩・後輩の上下関係も厳しいように思われます。一見、パワハラ問題も起こりやすいように見えますが、常に危険と隣り合わせで命がかかっている分、厳しい指導がむしろ当たり前のことになっており、少々口汚い言葉で罵られてもそれをパワハラとは感じない傾向があるのかもしれません。
一方、金融・保険業やサービス業といった業種では、1人当たりのノルマが厳しく管理監督する側も部下側も常に強い緊張状態にさらされているということが考えられます。また、現場での肉体労働とは異なり、狭い事務所の中で常に決まった人間同士が朝から晩まで顔を突き合わせているわけですから、様々なパワー関係が生まれるのも不思議はないでしょう。こうして考えてみると、業種によってパワハラの発生状況が異なるのは自然なことのように思えてきます。

 

職場内のパワハラ問題により深く踏み込んだアンケート調査としては、2007年に社団法人日本産業カウンセラー協会が行った調査が挙げられます。この調査は、実際に企業で産業カウンセリングに携わっているカウンセラー440人を対象に行われたもので、図2-3-2に示す通り、「職場のいじめと考えられる事例を見たり、相談を受けたりしたことがある」と回答したカウンセラーは全体の8割以上にのぼります。

 

図表2-3-2 「職場のいじめ実態調査」

(2007年  日本産業カウンセラー協会)

職場のいじめ実態調査

 

いじめの内容としては「パワハラ」が約8割とダントツ。(図表2-3-3) 具体的な行為としては、「罵る・怒鳴る・威嚇する」が全体の約7割を占めています。(図表2-3-4) また「無視・仲間外れ」といった子供のイジメのような行為が5割強にのぼっているのも特徴的ですね。

 

こうしたいじめが行われる社内の関係としては、図2-2-5のように、やはり「上司から部下に対して」が圧倒的多数を占めています。こうした上→下の方向で行われるパワハラの背景にあるのは、図2-2-6からも分かる通り「コミュニケーション能力の低下や欠如」。世代間のギャップをコミュニケーションで補おうとする努力が難しい時代になっているのかもしれません。
このような状況の背景には、ここ数十年の急速なIT技術の発展、コミュニケーションツールの変化があるのではないでしょうか。人と人のコミュニケーションの取り方自体が大きく変わってしまった今、世代の違う相手の価値観を理解し受け入れることは容易なことではありません。理解できないことへの諦めが、「人を育てるという意識の希薄化」につながっているのかもしれません。

 

職場のいじめの内容

 

職場のいじめの形態

 

いじめが行われる関係

 

職場のいじめと社会の傾向