パワハラ110番

パワハラの定義と判断基準を学ぶ@

パワハラという言葉が生まれた背景についてご紹介したところで、改めてパワハラの定義について見ていきましょう。
パワハラの定義については、専門家の間でも様々な考え方があります。ここでは、パワハラという言葉の産みの親である(株)クオレ・シー・キューブの岡田氏が提唱している定義と、厚生労働省の外郭団体である中央労働災害防止協会の定義をご紹介します。

 

2010年(株)クオレ・シー・キューブ改訂版
「@職務上の地位または職場内の優位性を背景にして、A本来の業務の適正な
範囲を超えて、B継続的にC相手の人格や尊厳を侵害する言動を行うことに
より、D就労者に身体的・精神的苦痛を与え、また就業環境を悪化させる
行為」

 

解説

@「職務上の地位または職場内の優位性を背景にして」

人が集まれば、そこには必ず何らかの上下関係が発生します。その最たるものが上司と部下の関係ですが、それ以外にも、特定のスキルが有る人と無い人、雇用条件に恵まれている人とそうでない人、専門知識がある人と無い人、学歴の高い人と低い人。性格の明るい・暗いや、会話の上手・下手もこれに含まれるかもしれません。パワハラは、こうした何らかの「Power(力)」を利用して、相対的に優位な人が行う行為なのです。
具体的には、上司が部下に対して仕事を与えなかったり、逆に無理な仕事を押し付けたり、わざと低い評価を与えたりするようなケースが挙げられます。また、IT関係の知識が豊富な人が、パソコン音痴な人を小馬鹿にしたり、IT技術を巧みに利用して相手の仕事を妨害したり。正社員が派遣社員に対して威張り散らしたり嫌がらせを繰り返したりする行為もパワハラに該当します。

 

A「本来の業務の適正な範囲を超えて」

職場内で起こるトラブルがパワハラに該当するか否かを見極める上で、この「適正な範囲」というのが最も判断に困る点です。あなたが今、職場で実際に受けている行為を、冷静にあくまでも「客観的に」見た時、それは業務上の必要があることだといえるでしょうか?どう考えても意味のない非効率な単調作業の繰り返しや、私的な使い走りを強要する、特定のスタッフに対してのみ極端に多く仕事を与える、些細なことで土下座させる…などの行為はパワハラに当たります。

 

B「継続的に」

1回怒鳴られただけ、1度だけ嫌味を言われたことがある…ということであれば、基本的にはパワハラとは言えません。相手も人間ですから、虫の居所が悪い日もあるでしょう。感情を抑えきれずについ相手にイライラをぶつけてしまうことは誰にでもあることです。その点は、許してあげても良いのではないでしょうか。(もちろん、差別用語で相手の人権を侵害したり、暴力を振るったりする行為は1回でもご法度です)   
問題は、人の心身を傷つける言動を継続的に繰り返すことです。1回きりのことであれば、「まあ、そういうこともあるだろう」と許すことができる人でも、毎日朝から晩まで「お前なんて辞めてしまえ」、「お前みたいなクズは居ても役に立たん」、「給料泥棒!さっさと辞めちまえ」と罵倒され続けていれば、精神的に相当なダメージを受けるでしょう。そのため、その言動が継続的に行われているかどうかが判断の1つのポイントとなるのです。

 

C「相手の人格や尊厳を侵害する言動を行うことにより」

「○○さん、もう少し大きな声で話すようにしてくれるかなあ?」
「注文書は、もうちょっと早く出すようにしてね」
「日当たりあと一件、アポイントを増やすように努力してね」
…このような指摘であれば、本人の努力次第で上司の期待に答えることができるかもしれません。しかし、生い立ちや学歴、性別、容姿、性格といった要素を非難されても、それらは本人の努力だけでは変えるのが難しいでしょう。
「しょせん、二流大卒だからなあ」
「これだから高卒はダメなんだよ」
「そのハゲ頭じゃあ契約なんて取れないよな」
「女のくせにでしゃばりやがって」
…こういった発言は、相手の人格を深く傷つける行為です。

 

D「就労者に身体的・精神的苦痛を与え、また就業環境を悪化させる行為」

肉体的な暴力を振るわれれば身体が傷つきますが、言葉の暴力は心を深く傷つけます。結果として、
「会社に行こうとすると動悸や吐き気がする」
「会社のことを考えただけで胃が痛む」
「会社に近づくとお腹が下る」
「夜、眠れなくなった」
「わけもなく涙が止まらない」
…といった様々な心身症状が表れてきます。
また、実際にパワハラ被害を受けている人ばかりではなく、その近くで被害の様子を見ていた人の心身にも、被害者と同じような変化が表れます。
「近くで誰かが怒鳴られているのを見ていると身体が震える」
「次は自分も同じような目に遭うのだろうかと思うと仕事に身が入らない」
…つまり、パワハラとは、その当事者のみならず職場全体に深刻な影響を与え、組織の生産性を落としてしまう行為なのです。

 

中央労働災害防止協会のパワハラ定義も見てみましょう