パワハラ110番

1-1 そもそもパワハラとは何か

「和気あいあいとした雰囲気の職場です」
「アットホームな雰囲気で、上司にも悩みごとを相談しやすいです」
「未経験者歓迎!サポート体制がしっかりしています」

 

…いずれも、求人サイトや求人誌でよく目にするフレーズだと思います。さらに、従業員の笑顔の写真がついていれば、多くの人は「従業員同士の関係が良好で、非常に働きやすい職場なのだろう」とイメージをふくらませることでしょう。

 

しかし、どんな職場も、実際に中で働いてみなければ本当のところは分からないものです。例えば、「和気あいあい」、「アットホームな雰囲気」をアピールしている企業は、度が過ぎる仲の良さでプライベートなことにまで何かと干渉される職場かもしれません。また、わざわざ「未経験者をサポートします」と謳っているのは、なんらかの問題で新人が育ちにくく若手がいない職場なのかもしれません。外から見れば楽しそうに見える職場でも、大なり小なり人間関係のトラブルは存在するものなのです。

 

とりわけ、最近、多くの職場で問題になっているのが「パワーハラスメント(Power  Harassment)」、すなわち「パワハラ」です。定義や判断基準については1-3で詳しく述べますが、パワハラとは、ごく簡単に言うと「仕事上の立場を使った過度な叱責やいじめ」のことで、相手に精神的または身体的な苦痛を与える行為のことを意味しています。その名の通り、職場の力関係(Power)が背景になっており、相手に対して相対的に優位な立場を利用しておこされることが多いようです。

 

具体的には、他の社員が見ている前で怒鳴りつける・暴力を振るう・無視する・孤立させる・侮辱する・個人的な好嫌感情で極端に低い評価を与える・不当な理由で降格させる・不当な理由で解雇する…といった行為が挙げられます。

 

サラリーマン生活の長い方の中には、「そんなことは今に始まったことではない」と一笑に付す方もいらっしゃるでしょう。確かに、こうしたトラブルは今に始まったことではなく昔から存在していました。
しかし、ここ数年、パワハラに関する労働紛争が激増しているのが実情です。その背景には、年功序列式とは異なる「成果主義人事制度」の浸透や雇用形態の多様化、長引く不況…といった職場環境の変化が、職場の人間関係に大きな影響を及ぼしていることが考えられます。派遣切り、労働条件の引き下げ、人員削減、1人当たりの業務量の増加。団塊の世代の一斉退職や、ゆとり世代の新入社員との価値観のギャップ、過度なメール依存によるコミュニケーションの行き違い…等々、職場でのストレスはもう極限状態と言っても過言ではないでしょう。

 

このように余裕のない状況では、慢性的にイライラしてしまったり、些細な出来事でも相手に腹を立ててしまったりするようになり、職場の緊張感が非常に高い状態になってしまいます。冷静になってよく考えてみれば「軽口」と呼べるレベルの発言に過敏に反応してしまったり、些細な行き違いに過ぎない問題を大ごとに捉えてしまったり。結果として従業員同士の衝突が発生しやすくなり、職場の人間関係に悩みを抱える人も増えてしまうというわけです。

 

最近では、人間関係の悩みがうつ症状にまで発展し、休職や退職に追い込まれるケースも増えているといいます。最悪の場合は自殺にまで発展するケースもありますから、事態は深刻です。
しかも、パワハラの問題は、人によって受け止め方が様々で一律に語ることが難しいという、なんとも厄介な特徴を備えています。同じ言葉でも、「冗談、冗談。パワハラだなんておおげさな…」と笑って流すことができる人もいれば、「これは立派な人権侵害だ!」と捉える人もいるわけで、まさにケースバイケースということになります。

 

しかし、セクハラと決定的に異なる点は、「行為を受けた者の不快感だけを判断基準にはしていない」ことです。部下のミスや不正を叱るのは上司としての重要な役割であり、こっぴどく叱られたからという事実だけではパワハラにはなりません。つまり、「客観的に見て、その行為が正当なのか・不当なのか」が問題になるわけです。

 

これから、パワハラというテーマについて、「裁判沙汰に発展させる」という選択肢も含めて深く掘り下げて考えていきますが、判断を間違うと被害者であるはずの自分が不利益を被ることにもなり兼ねません。
社会人としてのあなたの「これから」を守るためにも、正しい基礎知識、対処法を学んでいきましょう。