パワハラ110番

“事故”だけが労災ではない!

“労災”と聞くと、
「工場で作業中に指を切断した」
「作業中に足を滑らせて高所から落ちた」
といった“事故”を連想しがちではありませんか?
労災とは、「労働者災害補償」の略。
この名前からもやはり事故をイメージしてしまいがちですが、
労災認定の対象は事故による怪我だけに留まりません。
うつ病などの精神疾患や自殺についても、
“パワハラ”や“過労”などの
“職場のストレス”が原因と認められた場合には労災認定が下り、
療養補償や休業補償が認められています。

 

…とはいえ、これまで、パワハラをはじめとする
“職場のストレス”が労災として認定されるのはごく稀なケースでした。
厚生労働省による2007年度の調べによると、
精神疾患による労災の申請件数952件のうち、
認定されているのはたったの28%に留まっていたのだとか。

 

なぜ心の業気は労災認定されにくいのか?
その理由は、身体の怪我とは違って心の傷は目に見えにくいからです。
そのため、
「必ずしも会社での出来事が原因でうつ病になったとは言い切れない」
という理由で労災認定が下りないケースも多かったのです。

 

そんな中、精神疾患を労災認定する際の判断基準が
10年ぶりに見直されました(2009年)。

 

労働基準監督署は「職場における心理的負荷評価表」を用いて
労災認定を行っていますが、
この評価表に新たにパワハラ関連の項目が加えられたのです。

パワハラが労災認定された代表的な例

10年ぶり見直された「職場における心理的負荷評価表」
職場での起こり得る様々な出来事のストレス強度を、
「1」〜「3」の3段階で判定しています。

 

改定後は、
「退職を強要された」
「ひどい嫌がらせ、いじめ、または暴行を受けた」
といった職場でのパワハラ行為が、「3」に分類されるようになりました。

 

これにより、パワハラによる労災認定のハードルが
格段に低くなったと言われています。

 

ところで、今回、なぜ基準の見直しが行われたのでしょうか。
その背後にあるのは、急激な労働環境の変化です。
雇用形態の多様化、グローバル化、IT化、長引く不況…。
労働者を取り囲む環境は数十年前から大きく変化し、
人間関係の在り方も変わってきました。

 

例えば、メールの普及も
ビジネスの在り方を大きく変えた一因だと言われています。

 

こういった変化の中で、
労働者たちは心身に様々なストレスを抱え込むようになりました。
そのストレスは、時には“パワハラ”という歪んだ形で
他者を攻撃するようになったのです。

 

その結果、次第に、うつ病などの精神疾患を発症する労働者も増加…。
このような状況を鑑みて、
厚生労働省は労災認定の基準を見直したものと考えられます。

労災の申請方法は?

では、労災を認定してもらうためには
どのような手続きを踏めば良いのでしょうか?

 

まずは、申請です。
作業中の怪我であれば、
普通は会社の担当者が労災の申請手続きを代行してくれるハズです。
しかし、パワハラが原因の心の病となると、そう簡単にはいきません。
会社側は労災の申請を渋るものです。

 

この場合は、本人またはその家族が自ら労働基準監督署へ行って
請求を行います。

 

必要なものは、
「労働者労働災害保険請求書」(5号、7号、8号用紙があります)。
これは、労働基準監督署でもらうことができます。
この申請書に、自分の住所や氏名、生年月日、
事件の発生した状況等を記入して労働基準監督署に提出します。

 

…と聞くと、「なあんだ、簡単じゃん!」と思うかもしれません。
ところが…!実は、最大の難関があります。
この申請書には、会社側の押印と労働保険番号の記入が必要なのです。
会社側がホイホイ押してくれるとは考えにくいですよね。。

 

そんな時は、精神的な治療を受けている病院から、
治療日数と医師の証明印が入った診断書をもらってきましょう。
そして、5号用紙は病院に提出し、
7号、8号用紙は「労働者労働災害保険請求書」と一緒に
労働基準監督署に提出します。

 

この時、会社側の欄は空白にしておきます。
それでも申請自体は受理されます。

 

残念ながら労災認定がなされないケースもありますが、
逆に会社側が「労災隠しをしていた」と認定されると、
会社側が厳重な処分を受けることになります。