パワハラ110番

労働審判は「公表しない」が条件?

労働審判を利用してパワハラ問題を解決した事例を探そうとしても、
なかなかそういった事例は見つけられないでしょう。
実際、「○○社がパワハラで訴えられて敗訴した」…という裁判ネタは
メディアでもよく取り上げられますが、
労働審判は取り上げられませんよね。

 

…それは、調停(和解)の際の条件として
「公表しないこと」が決められてしまうことが多いからです。
ここには、企業側からの、
「要求通りに非を認めてお金は支払いましょう。その代り、表沙汰にするなよ」
…というメッセージが見え隠れしますが(苦笑)

 

企業名、人物が特定できるような“つぶやき”をしようものなら大ごとです…。
これが不服だから、パワハラを受けていても
「労働審判制度は使わない」という方も多いようです。
(逆に自分が訴えられてしまうかもしれませんからね…)

 

ですから、「労働審判の具体事例を調べてから、自分の今後を検討しよう」
…そう思っても、残念ながら参考になる事例はヒットしないのです。

貴重な実例をご紹介!

そんな中でも、稀に労働審判の事例がネットに上がっていることがあります。
ここでは、その一例をご紹介しましょう。
(具体的な企業名などはもちろん伏せられています)

 

【事例の概要】
総務部のAは、違法解雇で労働審判を起こした労働者Bに対して、
資料を提供した。
それ以降、上司であるCからパワハラを受けるようになった。
(指示がもらえない、報告を聞いてもらえない等)

 

そこでAは、自己都合退職を決意。
しかし、「おそらく、有給休暇消化の妨害や退職金の減額操作など、
上司Cによる妨害行為を受けるだろう…」と予測したAは、
形式的にはパワハラに基づく損害賠償の労働審判を起こすことにした。

 

【労働審判の審理結果】
第1回期日での審理では、
上司Cのパワハラ行為の実態がある程度明らかになった。
その場で、Aの有給休暇の取得の宣言も行った。

 

第2回期日の審理では、パワハラの立証のために
録音された音声の取り調べが実施されたが、録音状態が悪く、
労働審判委員会が「パワハラ行為だ」と確信を抱くには至らなかった。
ちなみに2回目は、Aの退職手続きが(妨害されずに)スムーズに進むよう
「退職手続の確認」も兼ねていた。

 

最終日、第3回期日では、Aが退職することを改めて確認。
“欠勤扱い”にされていた分を有給休暇として認め、
差額の給与の支払い、退職金額の確定と支払いなどを確認して
調停(和解)が成立!

 

【労働審判事例のポイントは?】
このパワハラ事例のポイントは、労働審判を利用することによって
労働者Aがパワハラ上司の妨害を受けることなく無事に退職できたことでしょう。
もう辞めることを決めていたわけですから、
上司Bのパワハラ行為そのものをなんとかして欲しいというよりは
「無事に退職すること」がAにとって最も大切なことだったのです。

 

Aが有給休暇届出を提出しても受理されなかったという事実もあり、
これはもう立派なパワハラ!
「やむを得ない退職」との判断が可能となり、
形式的には退職届を提出した「自己都合退職」であるものの
法的には、「退職に追い込まれた」という解釈ができます。

 

失業保険の給付についても、「特定受給資格者」に該当するため、
なんと、失業保険が早くもらえるようになるんですよ♪
(受給手続きから7日間の待期を経て、8日目から基本手当の支給がスタート)

 

この事例と共通する部分がある方は、ぜひ、
今後の身の振り方の参考にしてみると良いでしょう。